QUESTIONより:疑似体験が実体験を越えるとき


QUESTIONより

前に動物園でカンガルーに触れあいに行ったら思った以上に囲まれて怖かった体験をしましたが、実際に体験しないと分からないことはまだまだ多いですよね?IT技術が発展していつかは疑似体験が実際の体験を超える日は来るのでしょうか?


動物園にいるかわいい動物たちも、触れ合うとけっこう怖いものです。彩雨さんもちっちゃいとき、猿に洋服を引っ張られて泣いた記憶があります。

IT技術と疑似体験、VRもまさに擬似的な視覚を追求したもので、摩天楼オペラも2月に行われた男限定ライブをVRで映像販売しています。ではそれが実際の体験と同等かというと、もちろんそうはいいません。みなさんもそういった実感はあることでしょう。

情報は五感で得るもの

人間は毎日多くの情報を得ています。一般的には五感といわれており、聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚の5つです。例えば朝起きて、今日は雨が降ってるな、という情報を得るとすると、それは窓から見える雨粒、つまり視覚でそう判断していると見せかけて、そうではありません。もちろん視覚もそうですが、例えば雨の音、雨の匂い、天気が悪いからこその温度など、視覚以外の情報も得て雨だという情報に変換するのです。

これをIT技術に導入するのは、容易いことではありません。VRは自分の意図する方向に視点を変えられるなど、もちろんこれまでの映像技術では体験できない視覚体験を提供してくれました。しかし、例えばライブハウス特有の音圧や周りの人の声、匂い、振動なども含めてライブ・コンサートの体験となります。それらを含めた情報をどうユーザーに与えるかが、究極の疑似体験となることでしょう。4D映画なんてのもありますが、それもまた向かう方向性としてはありなのかもしれません。

究極の疑似体験は妄想である

今度は、それとは逆の視点で考えてみましょう。

美しい音楽を聞いているとなにか情景が目の前に広がるかのよう、みたいなことがあります。映画で美味しそうな食事のシーンでなんかその匂いがしてきてお腹が空いてきたような…。ちなみに彩雨さんは真夏にクリスマスソングを聞くと涼しくなります(笑)

実は情報は五感のうちどれかだけでよく、その他は脳が補完してくれる、ということもあるのです。先程4D映画の話をしましたが、本当に優れた映画は2Dでも十分に人間にその体験をさせてくれるということです。人間にはその想像力があるからです。

究極の疑似体験は、人間の妄想なのかもしれませんね。

疑似体験が実体験を越えることはあり得る

今度はまたさらに別の視点で考えます。

先程から情報は五感で受けると言ってますが、それはあくまでインターフェースとして、つまり五感は入力装置なのです。その五感で受けた情報を処理しているのは脳です。例えば映像は目で見ているようにみなさん思ってるかもしれないですが、目は視覚情報を脳に伝えているだけ。つまり本当の意味で”見て”いるのは脳なのです。

脳は情報に不備があると、それを補完します。これがまた良くできていて、曖昧な情報を経験からうまく処理し、わかりやすく補正してくれているのです。

さて、質問にある通り、疑似体験が実際の体験を越えることはあるのか。彩雨さんはあると思っています。

脳が情報処理を行っている以上、もし実際の脳に直接情報を送り込むことができるのであれば、実際の経験以上のことを経験できる可能性があると思います。まだ脳に直接情報を送るというのは研究段階ですが、生まれながらに音を聞くということができない人でも人工中耳によって直接脳内に聴覚信号を送り音の世界を体験できる、というのはもうすでにできています。

それこそもうソードアート・オンラインや攻殻機動隊の世界なのですが、五感を使わずに脳に直接情報を送ることで実体験以上の疑似体験をすることはできるのではないかと思います。

ただ、エンターテインメントとしてそれを楽しめるようになるのはもうしばらく先かなとは思いますけどね。今はまだまだ五感に訴えるものづくりが必要です。やり方はそれぞれ、感じ方もそれぞれ、だからこそエンターテインメントは面白いものだと思います。これから今までにないようなエンターテインメントのジャンルも登場するかもしれませんね。