これはスタエフの文字起こしをブログ化したものです

先日東京メトロ半蔵門線が長時間にわたって運休し、都内の交通機関に大きな影響が出ました。僕も朝早くから東京駅周辺にいたので一瞬ヒヤッとしましたが、皆さんは大丈夫でしたでしょうか。

最初は「人身事故や車両故障かな?」と思ったのですが、ニュースを見て驚きました。運休の原因が「アスベスト」だったのです。たかが糸くずが落ちただけで電車を丸一日近く止めるなんて大げさな、と思う若い方もいるかもしれませんが、アスベストはそれほどまでに厳重な対応が求められる極めて危険な物質なのです。

かつての「魔法の鉱物」アスベスト

若い世代の方はアスベストについてあまり馴染みがないかもしれませんが、僕たちの世代にとっては、2000年代に大きな社会問題になった記憶が鮮明に残っています。

調べてみると、アスベストの歴史は非常に古く、古代エジプトでミイラを包む布に使われていたり、マルコ・ポーロの『東方見聞録』に「火に入れても燃えない魔法の布」として登場していたりします。熱や摩擦、酸やアルカリにも強く、電気を通さず、しかも安価に大量生産できる。かつてはまさに「夢の素材」「奇跡の鉱物」として絶賛され、建材や防火材としてあらゆる場所で使われていました。

人体への取り返しのつかない影響

しかし、この「奇跡の鉱物」には恐ろしい欠点がありました。天然の細かい繊維状の石であるアスベストは、空気中に飛び散ったものを吸い込むと、肺の奥深くに突き刺さってしまいます。人間の体内では絶対に分解・消化されることがなく、そのまま肺に留まり続けます。

そして、吸い込んでから15年〜40年という非常に長い潜伏期間を経て、中皮腫や肺がんといった深刻な病気を引き起こすのです。これがアスベストの最大の恐ろしさです。

日本では段階的に規制が強化され、2006年には重量の0.1%を超えるアスベストの製造や使用が全面的に禁止されました。(2012年には猶予されていた代替困難な一部の用途も完全禁止となっています。)

解体ラッシュとアスベストの未来

今回の半蔵門線のニュースで僕が改めて感じたのは、「アスベスト問題は過去のものではなく、これからが本番かもしれない」ということです。

アスベストは建物の壁や天井に封じ込められて表に出ていなければ、吸い込むことはないため基本的には安全です。今回の事故も、設備の劣化によって物理的に破損し、糸くずとして外に飛び出してしまったから大問題になったわけです。

アスベストが最も大量に使われていたのは、1970年代から90年代にかけての高度経済成長期です。コンクリートの建物の寿命は約50年と言われていますから、まさに今の2020年代から21世紀の半ばにかけて、日本中で当時建てられた古いビルや学校、駅などの「解体ラッシュ」がやってきます。

解体する際、壁の中に眠っていたアスベストがむき出しになります。そのタイミングで飛散を防ぐための厳重な処理を行わなければ、作業員や近隣住民に健康被害を及ぼす可能性があります。僕たち一般人には、建物を見ただけではそこにアスベストが使われているかどうかは全く分かりません。

東京メトロが今回の件で、始発から電車を完全に止めて専門業者を入れて徹底的に対応したのは、利用者の安全を最優先に考えた英断だったと思います。これから日本中で古い建物の老朽化や解体が進む中で、今回のようなアスベストのニュースを耳にする機会は増えていくかもしれません。過去の遺物とどう安全に向き合っていくか、社会全体で注意を払っていく必要があると感じました。