これはスタエフの文字起こしをブログ化したものです
1990年代後半をピークに、インターネットやストリーミングサービスの普及によって、その役割を終えたかに見えた「CD」。しかし今、アメリカでCDの売上が2年連続で増加するという、興味深い現象が起きています。
「AKB商法」と、日本の特殊なCD市場
日本では、他の国に比べてCDの売上減少が緩やかだと言われています。その理由の一つが、握手券や投票券をCDに封入し、ファンに複数枚購入させる、いわゆる「AKB商法」です。
音楽を聴くためのメディアとしてではなく、イベント参加券やグッズとして、CDに新たな「付加価値」を与える。この日本独自の販売戦略は、時に批判の対象ともなりますが、CD市場を支えてきた大きな要因であることは間違いありません。
テイラー・スウィフトがCD売上を伸ばした手法
そして今、この「J-POP流」とも言える手法を、世界のトップアーティストであるテイラー・スウィフトが取り入れ、大きな成功を収めているのです。
彼女は、CDのケースカラーやジャケット写真を複数バージョン用意することで、ファンの「コレクター心」を巧みに刺激。一人のファンが、同じアルバムを何枚も購入するように仕向けたのです。その結果、2022年に発売されたアルバム『Midnights』は、CDだけで64万枚という驚異的な売上を記録しました。
ストリーミングにはない「所有する」という価値
なぜ、便利で安価なストリーミングがあるのに、人々は物理的なCDを求めるのでしょうか。
記事では、Spotifyなどに代表される、アルゴリズムによる「おすすめ(レコメンド)機能」への疲れや反発も、その一因ではないかと分析しています。
しかし、より本質的な理由は、「所有欲」にあると僕は考えます。
ストリーミングサービスは、月額料金を支払うことで、膨大な楽曲の倉庫にアクセスする「権利」を得ているに過ぎません。それは、言わば「レンタル」であり、サービスが終了すれば、あなたの手元には何も残りません。
一方で、CDは、音楽というデジタルデータを、物理的な「モノ」として手元に置いておくことができる。この「所有している」という原始的な満足感こそが、ストリーミングにはない、CDの最大の魅力なのです。
「消える」リスクと、物理メディアの重要性
さらに、CDにはもう一つ、重要な価値があります。それは、社会の変化によって、作品が「消されてしまう」リスクから守られる、ということです。
今、この瞬間は問題なくても、30年後、50年後には、その歌詞や表現が「不適切だ」と判断され、ストリーミングサービスから削除されてしまう可能性は、十分にあり得ます。かつて、多くの子供たちに愛された絵本『ちびくろサンボ』が、人種差別的であるとして絶版になったように。
本当に好きな作品を、未来永劫、自分の手元に残しておきたい。そう願うなら、物理的なメディアとして「所有」しておくことは、非常に重要な意味を持つのです。
デジタルの利便性と、物理的な所有の満足感。この二つをどう両立させていくか。テイラー・スウィフトの成功は、これからの音楽ビジネスのあり方を考える上で、大きなヒントを与えてくれているように思います。