QUESTIONより:ZAIKOアンコールに摩天楼オペラも参加へ、ライブサブスク化の気持ちや感覚の違い


QUESTIONより

ZAIKOのサブスク型新サービスが気になっています。ブルーレイなど作品として、編集前提で撮影して残るものと、配信ライブがアーカイブでそのまま残って見続けられるもの(多少の編集はあるのかもしれませんが)では、ライブをやる時の気持ちや感覚がまた違うのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?


摩天楼オペラからの正式発表よりも前にいただいたQUESTIONということで、とてもいい嗅覚をなさっていますね。

ZAIKOアンコールが開始

ZAIKOはもともとオンラインチケット販売会社だったようですが、コロナのこともあり大きな影響を受けてしまいました。しかしそこからの切り替えは非常に素早く、すぐさまオンラインでのネット配信事業へシフトし、多くのアーティストがZAIKOのサービスを使うようになりました。

同様のサービスは他社も行っていますが、ZAIKOはコロナ禍において躍進した企業のうちの一つと思っています。合わせて、摩天楼オペラでも独立後に利用させていただいています。

そんなZAIKOから興味深い話をいただきまして、今回のZAIKOアンコールについては直接オファーがありました。多くのアーティストがZAIKOでライブ配信をしている中、選んでいただきありがたいものです。まぁこういった新規事業はコンテンツに絡むものです。音楽とはコンテンツビジネス、いわば権利ビジネスですので、こういうときにフットワークの軽いアーティストさんでなければなかなか乗っかるのは難しいかもしれません。

個人的にも興味のある案件でして、せっかくお声をかけていただいたということで、8月、9月のライブをこちらの案件に乗っからせていただくことにしました。

(※気になっている方も多いと思いますが、今後すべてのライブはここで配信されるわけではなく、今のところ8月、9月の2公演のみサブスク配信いたします)

ライブのサブスク化は必然

思えば150年ほど前、トーマスエジソンが蓄音機を発明しました。それからすぐの、120年ほど前には商用のレコードが販売されるようになります。

昔は音楽を録音して販売という概念すら存在しなかった中、革命的な出来事です。現在の音楽ビジネスは非常に歴史の浅い存在です。日本では創業数百年という会社もある中、音楽業界は存在してからまだ100年ちょいしか経ってないわけです。

こういうことをいうと音楽をやっている人に怒られそうですが、自分が京都で講義をする際には、いかに音楽業界は歴史が浅いかをまず説明しています。

音楽業界をさぞ威厳のあるように感じている人もいますが、それはまやかしです。音楽の歴史はまぁまぁ長いですが、音楽業界に大した歴史はなく、逆にいえばこれから未来へと続く音楽業界において、この2020年はまだまだ長い目で見れば黎明期であるということです。今は多くのチャレンジをする段階ということです。

120年前は音楽は生演奏するしかなかった時代。その後、多くの発明家の力により録音し、さらに遠方の人へと音を届けることができるようになりました。それも、昔は生演奏でしか収録できなかったわけですが、テクノロジーの進化によっていろいろと編集ができるようになりました。

この編集のテクノロジーを否定的に見るわけではなく、僕らも、また多くのバンドもこのテクノロジーを使い現代の音楽が成り立っているわけです。

しかしライブというのは基本的にそういったことはできず、リアルタイムにそのままのものを届けるのが常です。

時代は回るということで、コロナ禍において奇しくも始まってしまったライブの生配信文化は、この120年の歴史を一周戻して逆に生演奏の能力がこれまで以上に求められる時代へと戻っていくということを意味しているように感じています。

エジソンの友人でもある、音楽家ブラームスは、エジソンが蓄音機を開発したのち、ブラームスの生演奏を収録しています。著名な音楽家が自らの演奏を録音した最初のケースと、自分は認識しています。

しかしこのころのブラームスは高齢で、自分の演奏を後世へ残すことをためらったという記述も合わせて読みました。これがどこまで本当かわかりませんが、録音が残るというのは音楽家にとって一つの大きな転機であると思います。今となっては録音は当たり前ですが、昔はそうではありませんでした。

その昔、生演奏しかありえなかった音楽が録音できるようになりました。

現在、生演奏しかありえなかったライブが録画配信できるようになりました。

こういった変化がいくらでも生まれるほど、音楽業界はまだまだ生まれたての黎明期であるということです。

ライブをやる気持ち

ここでQUESTONに戻ります。

ライブが収録されるもの、収録されないもの、たしかに気持ちに差がないとはいえません。そんなの関係ない!といえれば一番ですが、心のどこかではやはり気になることもあります。

しかし、この気持ちはとても大事な変化だと思っています。

インターネットの存在によって、ありとあらゆるものがコンテンツ化されました。ネット上でのちょっとしたつぶやきから映像配信まで、ありとあらゆるコンテンツが未来永劫残っていくことになります。

そしてこのコロナ、音楽業界を取り巻く変化、僕らバンドマンだけではなく、みなさんも戸惑うことが多いと思います。

この戸惑い、違和感、すべてが未来へとつながる重要な資料になります。

今は過渡期、戸惑っていいのです。ブラームスもきっと戸惑ったはずで、おそらく120年前の音楽家はみんな戸惑ったと思います。それを今、僕らも経験しているということで、それでいいのです。

こういった戸惑いを経て、自分自身も音楽家としてのさらなる成長へとつながり、音楽業界自体もさらなるステップを踏めると思っています。今は貴重な時代を生き、貴重な経験をしています。ここで自分が感じた戸惑い、みなさんが感じた戸惑いをすべて今後未来へ活かす重要なエネルギーに変えることができたらいいなと思います。