AI時代のファンアートと二次創作文化


これはスタエフの文字起こしをブログ化したものです。

人気VTuber事務所「ホロライブ」を運営するカバー社が、株主総会で「AI製ファンアート」への対応について言及しました。結論から言うと、「AIの活用と悪用は分けて考えており、悪用については法的措置も含めて対応する」という、ある種、当然とも言える回答でした。しかし、この問題は単なるファンアートの扱いにとどまらず、VTuberという存在そのもの、そして二次創作文化全体の未来を考える上で、非常に重要な論点を含んでいます。

予想、VTuber事務所がAIを全否定できない理由

まず、大前提として、VTuber事務所がAIという技術そのものを全否定するわけにはいかない、という事情があります。なぜなら、将来的には「中の人がAIになる」という可能性を、彼ら自身が見越しているはずだからです。

人間としての「中の人」は現実世界で活動し、AIとしてのアバターはネット空間で活動する。こうした役割分担は、今後ますます一般的になっていく可能性があります。僕の知人にも、既存のタレントをAI化してファンと交流させるサービスを開発している人がいます。

今はまだ「人間」と「AI」は明確に区別されていますが、この境界線は、今後エンターテイメントの世界、特にアバターを介して活動するVTuberという領域において、最も曖昧になりやすい部分だと僕は考えています。だからこそ、事務所としてはAI技術そのものに否定的なスタンスは取れない。今回の回答の裏には、そうした未来への布石があるのではないでしょうか。

ファンアートはどこまで許されるのか?

話をファンアートに戻しましょう。今回の質問の背景には、AIイラストの蔓延によって、手描きのファンアート作家が「AI絵師」と誤認され、風評被害を受けるといったトラブルがありました。2022年頃には、タレント側から「AIイラストをファンアートとして自作発言しないでほしい」といった趣旨のお願いが出されたこともあります。これはつまり、「AIを使って作られたものは、ファンアートではない」というニュアンスを含んでいました。

しかし、本当にそうでしょうか。AIというツールを使った創作は、果たして「ファンアート」ではないのか。この定義は非常に難しい問題です。

さらに問題を複雑にしているのが、ファンアートが「二次創作」であり、それが時に「お金を生む」という側面です。もし、AIを使った二次創作を何でもかんでもOKにしてしまうと、それを利用して安易にお金を稼ごうとする人々が現れ、IPホルダーの権利を侵害する可能性が出てきます。かといって、それを厳しく規制しすぎると、今度はファンアートや二次創作という文化そのものを根絶やしにしてしまいかねません。

「全部OK」か「全部NG」か、二極化する未来

僕個人としては、二次創作文化は「あり」だと考えています。ファンによる創作活動が、元の作品の世界を豊かにし、新たなファンを生み出すという側面は間違いなくあります。しかし、今、この文化はAIという新しい技術の登場によって、大きな岐路に立たされているのです。

おそらく、今後のIPホルダーの対応は、「全部OKにする」か「全部NGにする」かの二極化に進んでいくのではないでしょうか。

例えば、クリプトニンジャのような新しいIPは、AIを使ったファンアートも、それでお金を稼ぐことも、全てOKにしています。こうしたオープンなスタンスを取るIPは、今後ますます増えていくでしょう。一方で、伝統的な企業やIPは、手描きはOKでもAIはNG、といった線引きをしようとするかもしれません。しかし、その線引きは非常に曖昧で、結局は「二次創作は原則すべて禁止」という方向に傾いてしまう可能性も否定できません。

今まさに、その瀬戸際にいるのだと僕は感じています。各社が下す一つ一つの判断が、日本のポップカルチャーを支えてきた二次創作という文化の未来を大きく左右することになるでしょう。この問題の動向を、僕も固唾を飲んで見守っていきたいと思います。