優生思想という考え方があります。
例えば家畜であったり農作物は、よりいい品種を作るために長い時間をかけて品種改良がおこなわれています。それによって毎日おいしいお肉やお米を食べることができるわけですが、似たようなことを人間でもやろう、という考え方です。
優生学、優生学的な選別思想、いろいろな言葉があり細かく言うとそれぞれ少し意味は違いますが、ざっくりとは同じようなものと解釈しています。
優生思想とは
優生思想というと、危険な考え方だ!と思う方が多いと思います。その背景にはナチスドイツの件があります。
優生思想は、人間がより進化するために、優れた人間、優れた人種を残していこうということで、この考え方に基づきナチスドイツにより多くの虐殺が行われました。そのため、その反省を込めてこういった優生思想は戦後、世界中でなくなっていくことになります。
しかし優生思想は1800年代後半から1900年代前半にかけてドイツに限らず多くの国にあった考え方で、多くの人が支持していたのでした。みなさんドイツのことばかり言いますが、そういうわけでもないのです。
現代にも残る優生思想
優生思想は危険だ、と拒絶反応を示す人は多いと思います。
日本でも障がい者施設で起きた残虐な殺人事件により久しぶりにこの考え方が表にでることになりましたが、最近でも政治活動されている方が「命の選別」という言葉を使い話題になったり、ついこの間もミュージシャンの方のツイートをきっかけに、間接的にではありながらも、この優生思想についての是非がネット上で大きな話題となりました。もちろん彼らが直接的に優生思想を投げかけたわけではないということは補足しておきますが。
フィクションではこの優生思想は多く残っており、例えばSF映画でも地球が滅亡しそうなときにAIが選んだ優秀な人間だけが宇宙へ逃げることができるとか、漫画では優秀な魂だけ死んだあとどこかに一時保管されるとか、そういった設定は数多くみられます。特に違和感もなく僕らはそういった設定を受け入れていますよね。
日常生活でも、例えば美男美女のカップルが結婚したとき、子供もきっと美形だろうねとか。あとはスポーツ選手同士のカップルが結婚したとき、子供も金メダルだねとか、そういう発言や考え方って、わりとみなさんパッとでてくると思います。それを直接的に優生思想だと批判するつもりはないですが、優生思想の考え方の根幹はそういったところにあるのではないかなとも思っています。
同様に、今は出生前診断といって、生まれてくる前に先天性疾患の有無の一部を確認することができます。確認だけではなく、この診断によって生むか生まないかを判断することになります。ではこれは優生思想とは完全に無縁なのか、といわれると、とても難しい問題と考えています。
デザイナーベイビーも技術的には可能と言われ、精子バンクを使って優秀な子供を生みたいと考える人も増えているという話もあります。
このように、現代社会にも優生思想に通ずる可能性のある事柄はいくつか残っています。同様に自分自身がじゃあ優生思想の欠片を一つも持っていないと断言できるかといわれると、いえない側面もあるでしょうね。
なぜ優生思想はダメなのか
いろいろな考え方があります。もし自分がものすごく優秀な部類に属していると思って、自分の子供もそれに見合う遺伝子を反映させなきゃいけないと強く決心するのであれば、そういう相手を探すことについて否定するつもりもありません。
しかし優生思想というのは、優秀な人を残すだけではなく、劣等な人を消すという考え方につながる傾向があります。そしてその優秀か、劣等かを判別するのは誰なのか。例えば運動能力は劣っていても、ずば抜けた頭の回転力があるかもしれません。頭の回転力があっても、極悪非道な思想を持っているかもしれません。人間はとても多様性があり、多くの側面を持っています。それをもって、誰がどのように人間を優秀か劣等かを判断するのか。
生まれも育ちも能力も考え方も、人にはいろいろな違いがあります。その違いも含めて、みんながそれぞれ手を取り合ってやっていこうというのが民主主義ですので、こういった優生思想の考え方を人間社会に取り入れるには、とても相性が悪いというわけなのです。
昔のような封建社会で、例えばワンピースのように一部の民族がものすごく偉いみたいな世界観でしたら、その民族のものは優秀でそれ以外は劣等、とすることも可能かもしれません。しかし20世紀以降は世界は民主主義へ進むことで足並みがそろいつつある現代、トップダウン方式で優秀か、劣等かをジャッジする社会は時代にそぐわないのです。
もし人間社会が民主主義とは違う別次元での社会になれば、こういった考え方もまた出てくるかもしれないですけどね。数千年後はどうなってるかは話は別です。
これ、けっこうデリケートかつ難しい問題の一つです。他にもたくさんの考え方もありますし、今後もちゃんと考えていくべきテーマの一つでしょう。