QUESTIONより:「本当の音」はどこで何を使えば聞けるのか


QUESTIONより

よくアーティストの方が「CDじゃなきゃ本当の音は聞けない」とか「スピーカーから出る音じゃないとダメだ」とか音質論争をされているのを目にします。でも本人たちが生演奏するライブ会場で聞く音は、会場の環境によってだいぶ音が違うような…という印象です。 バンドの中の人的に、「これが自分たちが届けたい音だ」と言える音って、どこで何を使って聞くと一番近いものに触れられるんでしょうか。


なるほど、音質論争、難しい問題です。

音質の前に音とは何か

音質の前に、音とは何かという基本的な話から。

音は空気の波です。

耳で音を聴くように感じる人もいるかもしれませんが、人間の耳の鼓膜に届き、その鼓膜が電気信号に変え脳が音を聴く、というのが生物学的に正しい考え方です。

脳のセンサーは曖昧です。少し塩を振ったスイカを食べるのと、何も振らないで食べるのとでは、甘さの感じ方が違います。脳は相対的に判断する傾向が強く、これは音でも同じ現象が起きます。

低音のバランスとかよくいいますが、低音が強い音楽をひたすら聴き続けノーマルなものを聴くと、低音が足りないかな、と感じることもあるでしょう。スイカも音楽も同じなわけです。

環境によって音は違って当たり前

音楽を聴く環境は、状況によって異なります。

これは当然の話です。

イヤホンも違うし、スピーカーも違います。静かな環境で聴く人もいるでしょうが、騒がしいところで聴く人もいます。車、電車、ここはそれぞれです。

デジタル主流となり今はあまり気にしなくてもよくなりましたが、昔のようにカセットテープでの再生だと、カセットへダビングする環境であったり、その質、劣化具合でもまた聞こえ方が変わってきます。

デジタル主流でも、圧縮音源だとまた音質にも差がありますので、一概には言えませんね。

じゃあどこで何を使えばいいのか

では話の本題ですが、じゃあどこで何を使えばいいのかという話に戻ります。

アーティストが使うヘッドフォンやスピーカーで聴けばいいのか。それは違います。

アーティストはヘッドフォンやスピーカーを仕事として使っています。

それは音楽を楽しむためのものではなく、どこかに問題はないかをチェックするためのツールです。

ではなにを使えばいいのか。

答えは何でもいい、ということです。

iPhoneのスピーカーでもいいし、何百万もするオーディオを使っても構いません。

しかしこれは、アーティストによっても考え方は違うでしょうが、バンドとしての総論ではなく、あくまで自分一個人の意見として聞いてほしいです。

自分は音楽制作において秋元康氏の「田舎の漁港のスピーカー」論を重要視しています。

このインタビュー、あとから読み返してみたら、昔にインタビューした内容の紹介、というニュアンスでした。もともとのインタビューは数十年前のもので、秋元氏がどういったニュアンスでお話されていたのか、原文を一度読んでみたいものです。

今ではスマホで誰もが気軽に音楽を聴く時代です。昔のように自宅に立派なオーディオがある人は減っているかもしれません。

そうなってくると、そういった「漁港のスピーカー」は「スマホのスピーカー」に取って代わられたかもしれませんね。

いい音楽というのは、何で聴いてもかっこいいし、どこで聴いてもかっこいい、これが答えです。

圧縮音源だろうと、スマホのスピーカーだろうと、音楽の本質は変わることはないと考えています。ユーザーが好きなようにすればいい、ということです。

やってはいけないこともある

これも前になにかでお話したこともありますが、やってはいけないこともあります。

それが、イコライザーの調整です。

低音を強調したりという使い方をする人も多いでしょうが、イコライザーはいろいろ調整ができるわけで、使っている人も多いと思います。

90年代くらいまではまだあってもよかったかなと思っています。

00年代以降は音圧戦争が始まり、ロックシーンを中心に、今では隙間がないほどの音圧となっています。それだけエンジニアが音圧を詰め込んでいるわけですが、出せる量には限度があります。エンジニアが意図しないところで低音を上げるとかしてしまうと、それこそ「本当の音」ではなくなってしまいます。

という自分もイコライザーの調整は行っています。しかしそれはスピーカーや環境の特性に合わせて音を「フラット」にするために使っているわけで、一部分を強調させる意図では使いません。

よくわからない人は、なにも設定しないで聴くのが一番いいと思います。